ら、マチガイもあるまい。この邸内からは、なるべく早く立ち去るがよい。甚しく目障りだから」
 彼は土屋を睨みつけて、さッさと戻ってしまった。

          ★

 新十郎の一行も到着して、さっそく捜査にかかったが、直ちに甚しい障壁にぶつかってしまった。天王会の信徒は、堅く口をつぐんで、誰一人一言半句の答をなす者もないからである。辛うじて牧田の口からかなり貴重な事実の数々が判明したが、イザという要所になると、平信徒の牧田では、どうにもならず、まったく確証があがらない。
 牧田は密々に捜査本部へ招ぜられて、新十郎からきわめてこまかな取調べをうけた。牧田は最高学府の教育をうけ私大の教師にまねかれるところを、密偵の話をきき、かねて邪教に興味をいだいていたところから、すすんでこの役をひきうけた変り者である。密偵とは卑しいことをする、と云って友人たちから甚しく蔑みをうけたが、たった一人かばってくれたのが坪内逍遥だったそうだ。しかし彼が有能な人材であったがために、この奇怪きわまる謎の解明が意外に早くなされることとなったが、牧田の正確な報告に加えて、新十郎に万人の見のがすカギをよく捕捉する学識と
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