心眼が具っていたためであった。
牧田は新十郎にこう報告した。
「私が与えられた任務は、今日の事件を予期してのことではなくて、神山幸三、佐分利ヤス、マサ、三名の変死の謎をさぐることでありました。それがはからずも今回の事件が起るに至って、はじめていくらか明瞭なリンカクを知り得たと申しましょうか。なぜかと申しますと、教団の奥のことは、信徒といえども臆測するのみで、その正体は鉄扉の彼方に距てられておりましたからです。はからずも十一月十一日は赤裂地尊の祭日で、この地神は荒ぶる神、一名赤裂血とも書き、血を最も愛する魔神とされているのですが、この魔神の怒りをやわらげて平和の守護神たらしめるためにイケニエを捧げる行事を「ヤミヨセ」と称し、信徒にとってはヤミヨセの言葉をきくだにふるえあがるほどの怖しい行事とされております。信仰の足らない信徒を狼に噛み殺させてイケニエにする行事だそうで、本殿の奥に於ては随時不信の徒をとらえて行われているそうですが、一般信徒に公開して行われるのは十一月十一日、赤裂地神の祭日、一年にただ一日だけであります。そして当日、一般信徒のとりかこむ真ッ暗闇の中で十数名の信仰足りぬ男女
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