が次々と狼に噛み殺されたのですが、その一人に月田まち子も加えられておりました。彼らは次々と断末魔の悲鳴をあげて血の海の中で噛み殺されて行ったのですが、しかし燈火がついてみると、彼ら一同死せると同様気を失ってはおりますが、どこに怪我があるわけでもありません。一滴の血も流れてはおりません。やがて正気にかえりスゴスゴと自分の席へ戻ったのですが、月田まち子も例外なく正気にかえり、どこに怪我した様子もありませんでした」
「グレートデンを飼っているそうですが、それと狼と関係があるのですか」
「それは関係がないと思います。信徒の中にも何か関係があるように思っている向きもありますが、実は世良田摩喜太郎が帰朝のみぎり番犬用に買ってきたもので、ヤミヨセの行事には、噛まれる者のむごたらしい悲鳴慟哭はうちつづきますが、猛獣の音はきこえたことがありませんでした」
「ヤミヨセの行事は、それで無事終ったのですか」
「左様です。その他いろいろありましたが、無事終ったことにはマチガイございません。ですが、先程も申上げました通り、このヤミヨセの行事には、先の幸三、佐分利母娘の事件について暗示を与えるものがありましたのです
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