。それには先ず天王会の教義を申上げる必要があるのですが、この教会では安田クミを教祖にたて、これを広大天尊、赤裂地尊の化身たる別天王と崇めることは一般に知れ渡っておりますが、このほかに快天王と称する隠し神があるのです。「隠し神」と申すのもこの教会の特殊な用語ですが、つまりこの神の本体が分らないのです。一説に赤裂地尊の荒ぶる姿であると申しますが、それも臆測にすぎません。快天王はヤミヨセの時に限って出現するものとされておりますから、一般信徒は一年に一度だけこの神の現れを見聞できるわけですが、これこそはあらゆる信徒をして一夜に白髪たらしめるに足る魔力を具備いたしておるのです。即ちかの恐怖にみちたヤミヨセの行事を司会するものは快天王であります。彼は世良田摩喜太郎の問いに答えて、ああせよ、こうせよと命じますが、その言葉はハッキリときこえて参りますが、いずこより来たる声か、それを発する言葉の主はついぞ知ることができません。あるときはモノノケの発する声の如く怖しく、あるときは悲しめる美女の如く哀切に、あるときは母を恋うる幼児の如く物悲しく、千差万別、泣くが如くむせぶが如しと思えば海山を裂くが如くにすさ
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