まじく、密偵たる私といえども、そのいずこより、又、いかにして発する声か知りうる術がありません。この謎は幹部といえども知るあたわず、ひたすら魔神の魔力の実在を信じ、これによって教団の基礎は不動のものの如くであります。つまり、信徒の不信を告発しその罪状をあばくのも、狼をよんでけしかけるのも、すべて快天王の声によってなされるからで、ヤミヨセの恐怖こそは快天王への恐怖にほかならず、信徒たるものの快天王を怖るることは言語に絶しておるのです」
「何者かサクラを使って発声せしめているのではありませんか」
「誰しも一度はその疑いをもつのです。いかな信徒といえども、無批判に魔神の実在を信ずるものではございません。しかし、快天王の声は、ある時は地下よりの如く、ある時は頭上よりの如く、しかし常に必ず中央のいずこよりか聴えて参るのです。即ち、ヤミヨセの行事は広間に円陣をつくり、中央に空地をのこし、空地の中央にただ一人世良田摩喜太郎が坐をしめて、快天王の出現を乞い、その告発を乞うのであります。即座にそれに応じて快天王の怖るべき告発が発せられますが、円陣のどこに坐しても、その声は自分の前方にきこえます。快天王の声
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