西洋で仕込んだ政治学や手腕を天王会の布教に傾けたから教会が大をなすのは当然だ。
 もう一人、大野妙心という四十がらみの坊主が参謀についている。禅から天台、真言と三宗を転々、いずれも秘奥をきわめて仏教に絶望したという。文覚以来絶えてない那智の荒行をやって、十幾たび気を失い、天下に名をとどろかした怪僧であった。彼は世界各国の宗教の教理に通じていると云われ、又、その弁舌の妙、音声は朗々とたなびいて項《うなじ》をまき懐に入り手をくぐり、妙香の空中を漂うごとくであると云う。彼が別天王に帰依して以来、婦女子の信徒が目立って多くなったというが、婦人に対する彼の魅力は特に偉大をきわめるようで、その威力は謎であった。
 ここに哀れをとどめたのは亭主の倉吉で、次第に奥の殿から下へ下へと放逐されて、平信徒もその末席、教会の下男、その又下働きのようなものに成り下っている。風呂の釜たきの牛沼雷象と同格、教会の寄生虫なみに扱われていた。
 世良田摩喜太郎の政治的手腕によって、藤巻公爵を会長とし、町田大将を副会長とする後援会が組織されて天下の名士の名を並べているが、これは信徒とは関係がない。ただ名をかした程度であっ
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