だそうとすると、書生の晏吾がよびとめて、
「オットット。虎大人。どこへ飛んで行くツモリだね」
「ヤ。しまった! オレの行く先はどこだ」
「カケコミ教だよ。帯ぐらいしめるのを忘れなさんな」
「ナムサン、シマッタ!」
 せっかく種を仕込んで来たのに先手をうたれては助からない。神楽坂から久世山までは谷を一ツ越すだけだが、走っても二十分はかかる。ふとっているから心臓の働きがまことに不充分で、カケコミ教へ辿りついた時には顔面蒼白、全身強直してヒキツケを起しそうである。哀れや、おそし。すでに警官百名、今や隊伍をととのえてひきあげるところ。すでに事件は終ったのである。
「どうした? 世良田摩喜太郎をひッとらえたか」
 警官隊の先頭に立つ剣術の弟子に向ってきくと、
「ハッ、世良田と別天王は見事に自害して果てました」
「ムムム」
 と歯をくいしばって、白目を返し、虎之介はドスンとその場へひっくり返った。精魂つき果てたのである。
 その晩、新十郎の書斎へ集った虎之介と花廼屋は、新十郎が海舟の推理をくつがえすのをウットリときき入っていた。
「いいえ。全作とミヤ子は事件に関係がないのですよ。三回にわたる殺人事
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