件は、全部世良田の単独犯行でした。勝先生は実際の捜査にたずさわっておられませんから、全作、ミヤ子を第三回目の犯人と見立てられたのですが、これはまことに当然。私とても、当初はテッキリそうだろうと見込みをたてていたのです。しかし牧田さんからヤミヨセの話をきかせていただいているうちに、次第に事の真相が分ってきたのです。あの死体を一見すれば、傷は二ヶ所しかないことが分ります。一ヶ所はノド笛をかみきった傷、一ヶ所は腹をさいた傷。しかし腹をさいたのは、着物の上からではなく、帯をとき、着物をまくって、腹をさいております。さすればノド笛をかみきられたのが先にできた致命傷、あるいは致命傷にちかい抵抗不能の状態を与えるに足る深傷《ふかで》であったと分るのですが、ノド笛にかみついた以上は被害者の真ッ正面から抵抗をうけなければなりません。即ち被害者は死にもの狂いの力で敵の毛をむしり着衣をむしり肉をむしり肉にかみつき、当然犯人に相当の傷を与えた上に手に何か握りしめているとか、あたりに何かが落ちているとかしそうなもの、しかるに何の抵抗の跡もなく、人の毛も犬の毛も、あたりに一本落ちているのを見かけることもできません
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