ムリなお願いをたのむことがなければ、お願いしてあげよう」
「それはもう、それ以上何も望みません」
「それでは別天王様にお願いしてくるから待っていなさい」
奥へ去ったが、やがて現れて、
「大そうむつかしいことであったが、幸いお許しがでたよ。支度に少し時間がかかるが、ここで待ちなさい」
と三十畳敷ぐらいの一室へ案内された。この部屋の板戸を堅くしめきり黒幕を下すと一筋の光ももれず、真の暗闇となってしまった。一同は命じられたように円陣をつくる。まもなく世良田が数名のミコや男女老幼雑多の信徒をひきつれてはいってきて、再びピッタリと外の光をさえぎってしまった。部屋をてらしているのは、ただ一本の大ロウソクである。彼は信徒をかえりみて、
「さア、お前方もそこに円陣をつくって坐すがよい。隠し神様が誰をイケニエにお選びになるか知れないが、散々イケニエを召し上って間もないのに、御大儀であろう」
世良田は一人中央にすすんでピタリと坐った。シンと一座がしずまってしばし物音というものがない。やがていずこからか、ウォー、ウォー、という狼の遠吠のようなものがかすかにひびいてきた。と、ミコの姿が一様にグラグラゆれ
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