宅を訪問いたしますから、悪しからずおききおき下さい」
「妹は兄にまけない強情な女ですからな。アハハ」
全作の笑声を背中にきいて新十郎は戻ってきた。
これを一同に報告して、重立った者のみが七八名で、竹早町の月田邸を訪ねた。久世山の教会から月田邸までは、歩いて十分あまりの距離でしかない。
まず女中に乞うて、庭に入り、現場をつぶさに調べる。女中たちをよびあつめて、誰か深夜にそれらしい音はきかなかったかときくと、使用人の部屋はすべて庭の反対側に面しているから、庭の奥の物音はいかな深夜でもきこえないという返事である。なるほど、使用人の部屋から、アズマヤまでの距離は直線にしても甚大で、きこえないというのが当然のようだ。
あいにく庭の裏手は道路を距てて広い校庭になっており、近所には人家が一軒もない。聞き込みの当てもないのであった。
新十郎はしばし現場のアズマヤにたたずんで四方を眺めた。そこは大木にとりかこまれて、さながら深山幽谷にいるかのような趣き、四辺の木々はひっそりとしずまって、まるで一里の厚さにかこまれた森の中のようであった。彼はアズマヤの中へはいってアチコチ見まわした。藁ブキのアズ
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