うカギは、私の身につけるか、銀行の金庫へ保管するかして、奴めの手出しの出来ない方法を講じてやりました。そこで奴めはカケコミ教に寄進ができなくなりましたから、教会にうとんぜられ、奴めはそれを私のせいにして、私を殺すことをたくらんでいましたよ。夫婦ですから、気配でハッキリ分ります。狂信者には、良人もなければ、人倫もありません。宗教あるのみです。どういうワケか知りませんが、奴めは最近に至って、カケコミ教に殺されると云っておりました。狼に食べられて腹をさかれるということを予言しておったのです。予言が実現したわけですが、かのカケコミ教は、私を犯人と見せるために、私の家の庭園中でまち子を殺したのです。私たち夫婦の不和や敵意などを、まち子の口からきいて知っていたからでしょう。かえすがえすも憎むべき狡智の邪教徒どもです」
 彼はこう云いはるのみで、他は口をつぐんで答えない。見るからに精力的な、あくまで強情な人柄であるから、一たん云いはったら、テコでもうごくものではない。新十郎はあきらめて、
「では、妹御にお目にかからせていただきたいものですが、よろしいか」
「それは妹の自由です」
「では、さッそく留守
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