牧田の長い報告が終った。まるで食い入るように聴き入っていた新十郎は、ホッと我に帰って、
「ヤ。どうも、ありがとうございました。赤裂地尊の祭典には、諸国から集る信者も多かったとききましたが、ソジンや一般人は参拝できないのですか」
「参拝ぐらいはできますが、ヤミヨセには、信者以外はでられません。ソジンも出ることを許されません。そう云えば、たった一人、信者でない人が、ヤミヨセの座にまぎれこんでいるのを見ました」
「ハテ、誰ですか」
「山賀侯爵の弟、達也君です。邸が隣接しておりますから、時々見かけて顔を見知っているのですが、彼は天王会に最大の敵意をいだいているときいております。この日は地方から参集した信者も多いので、まぎれこむには便利に相違ないのです。しかし、彼一人ではありませんでした。若い婦人を同伴していたのです」
「それは誰ですか」
「私もはじめて見る顔でしたが、二十前後のまだ未婚かと思われる婦人で、さして美しくはありませんが、いかにも知的な、体格のよい女でした。身体つきや顔に特徴があるので、見忘れることはありませんが、あの教会では、ついぞ見かけたことのない婦人です」
そこで、さッそく達
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