たべさせること、恐怖を与えることが主たる目的だから。私の目にはそんな風にうつりました。まち子は告発の理由として、キサマの身体は蛇になったぞ、蛇がウジャ/\まきついてるわ、というような怖しいことを荒々しい声で罵られたのですが、するとにわかにいずこともなく忍び泣くような悲しい幼女の声がして、アラ、ダメヨ、赤い頭巾をかぶせないで。目が見えないわ。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。そしてたまぎるように泣きました。ホウラ、こうして狼に食べられるわ、と、又、いずこよりか荒々しい声がしたのです。このように快天王の告発は、ある時は告発し、又あるときはそれにつづいて告発された者の悲しい運命を暗示したり、地獄におちて後の姿を語りきかせたり、あるいは地獄におちた者が自ら語る悲しい言葉をきかせたり、変化にとみ、妖気漂う怖しさ悲しさにみちみちているのです。告発せられた者は、それをきくだけで、すでに生きた心持を失い、死人の如く蒼白茫然としてしまうのです。まち子はこの告発をうけると、ひきだされ、やがて燈火が消され、狼がよばれて、むごたらしく食べられはじめたのです。狼をよんで食べさせる間は、いつも燈火が消されるのです」
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