く、又、宗団経営の見解、手腕についても、自分に独特の識見をそなえている。元々、禅、真言、天台と仏教だけでも三宗を転々としたほどの山師的、唯我的な男であるから、自分が一宗をひらきたいということは彼の念願であるに相違ない。と云って、新たに一宗をひらくというのは至難事であるから、カケコミ教の地盤をそっくり頂戴して、本家を乗っとるような策をめぐらしている、というのが信徒の浮説となっている。佐分利ヤスが隠し神の化身であるということは、妙心がいいふらしたことで、妙心とヤスとはネンゴロな関係にあるというのが一部の説なのである。
妙心は婦人に対して特殊な魅力をもつ男、教団内部に於ける彼に対する婦人の信仰は熱烈で、信徒の美女は概ね彼の情婦の如きものであると云われているが、別天王と世良田の関係だけは特別で、さすがの妙心も別天王を手に入れることができない。元来が別天王は性的に普通とちがったところがあって、異常な潔癖性をもち、千列万郎を生んでからは良人の倉吉と夫婦の交りを断つに至ったぐらい、その神経が一風変っている。これが変り者の世良田とは合うけれども、万人向きの妙心とはダメで、妙心の魅力もまったく別天王を
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