うごかすことができないのだという尤もらしい説をたてる者もあった。
 牧田は世良田、妙心対立の浮説に最も注目した。幸三は千列万郎の懸想する海野ミツエの恋人であったがために殺されたのかも知れないし、佐分利母子は別天王に対立する勢力になりかねない懸念のために殺されたのかも知れないのである。するとその犯人と目せられるのは、別天王と世良田を結ぶ一派でなければならないということになる。牧田はこう狙いをつけて、耳をすまし、目を光らせていたのであるが、いかんせん、教団の奥は鉄の扉に距てられて、とうていその現実を目のあたり知ることが不可能なのである。
 月田まち子については、まだこれという噂はないが、美女は大方妙心の情婦だという説によれば、彼女も妙心派。別天王の反対側の存在ということになる。奥の院へ自由に出入する女の中で、今や、まち子のほかに特に目に立つ美貌の持主はいないから、彼女の存在が妙心の策謀にとって重要なものであったかも知れないのである。その臆測を裏づけるのは、ヤミヨセに於て、まち子は快天王の怒りにふれ、狼にかみ殺されていることだ。
 問題は、快天王とは、何者の霊の働きによって生ずる怪現象である
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