われていた。ヤスはフシギにも別天王と同年の三十五、娘のマサ子は千列万郎の嫁と同じ年の十八である。かてて加えて、両者いずれ劣らぬ絶世の美貌であった。
快天王の音声が、時に百歳の老翁の如く、時に荒れ叫ぶ野獣の如く、又、美女の威ある如くむせび泣く如く、幼女の母を恋うるが如く、常に変幻ただならぬことは先に述べたが、主として美女の音声であることが多い。甚しく威ある時と、哀切をきわめる時と、美女の場合にも二ツあるが、特に威ある美女の声が甚しく印象的であるために、いつごろからか、隠し神の快天王も別天王と同じように女性の神であろうということが信じられるようになっていた。たまたま佐分利母子の出現によって、あれこそは隠し神の化身ではないか、という噂が起ったのである。
しかし、これには更に深いワケがあるといわれ、教団の最高幹部の二派対立が、こんな噂を生ませたのだという取沙汰がある。
二派というのは、世良田摩喜太郎と大野妙心の対立のことであるが、妙心はこの教団内に於ては世良田の声望に押えられて、それを凌ぐことができない。けれども彼は元来の宗教家であり、こと宗教に関する学識に於ては世良田の及ぶところではな
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