しても、坊主の学校の先生をして、一生の夢をその中へ封じこんで満足してゐる筈はないが、この先生も近頃フツフツ坊主の先生に厭気がさして、天下の政治家にならうといふ大きなことを考へはじめた。
かういふ派手な考へは、然し、この先生の肚の底に昔から潜んでゐたに相違ない。この先生が学者にならうと考へたのは、坊主よりは、坊主の学校の先生が派手だといふ見当からであつた。その頃は坊主の学校の先生以上に派手な夢を走らせる自由がなくて、適々《たまたま》口をすべらして天下の政治家になりたいなどゝ言ひだすと、墨染の衣ひとつで勘当になるのであつた。だから、かういふ派手な思想は浮かぶ余地がなかつたのだ。愈々学者になつてみて、天下の政治家になりたいといふ熾烈な望みは、ナポレオンの征服慾と同じ広さで、みる/\天地にひろがつた。
念のために、分りきつたことを説明する愚かさを我慢していたゞきたい。といふのは、元来坊主といふものは、天下の政治家に大変良く似た商売だといふことである。
あの坊主には素質がある、といふことになると、これはつまり、あの坊主はお経を覚える暗記力が旺盛だといふ意味ではない。尤もらしい話しぶりに妙を
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