風人録
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)婆羅門《ばらもん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)唯|徒《いたずら》に
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)みる/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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一 有りうべからざる奇怪のこと
この世には、とても有り得まいと思はれることが、往々有りうるのである。しかも奇妙なことには、さういふ事に限つて、さて実際行はれてみると、人々になんの注意も惹かず、不思議な思ひすら与へず、有耶無耶のうちに足跡もなく通過してしまふ。
先年、ある男が鉄道自殺をしようとして、驀進してきた貨物列車に向つて、走幅飛の要領で、猛烈なスピードをつけて飛びこんだ。これによつてみても、自殺は必ずしもセンチメンタルなものではない。スポーツのやうに勇壮で、生命と青春に溢れてゐる場合もあるのである。
ところが惜しいことに、この選手は失敗した。といふのは、あんまり勢ひが良すぎたので、線路を飛び越してしまつて、間一髪のところで、線路の左右位置を異にしたこの選手の生命を無事
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