、三十五六、もつと若く見えるほどで、ぬけるほど色が白く、端麗きはまる輪郭である。受け唇が、童女のやうに、あどけなかつた。癪にさはるほど、綺麗だと思つた。
この家庭へ出入の人々も、波子を綺麗だと言ふよりも、葉子の美しさに驚く人が多かつた。端麗な眼鼻にどことなくあどけない幼さが残り、清らかな色情を漂はしてゐる。支那陶器の鑑定家といふ男など、酒に酔ふと、私は奥様の美を尊敬致します、などゝ口癖のやうに言つて、東洋一の美貌である、などゝ断定した。
波子は母に腹が立つと、きつと、母の美しさが、まづ、まつさきに、意識させられて、いやだつた。いま/\しく、さうして、たしかに、嫉ましかつた。
父と争つて、黙つてしまふ時の母も、やつぱり、特に美しい母であつた。特に美しい母を見ると、波子は必ず嫉ましくなる。父と争つて、負けてしまつて、黙つてしまふ母であつても、特に美しい母であるとき、波子はきつと嫉ましかつた。さうして、母が気の毒だとは思はずに、死花を咲かせたいといふ父の方が、いぢらしく、可哀さうになるのであつた。
死花といふ言葉についてだけ言へば、これはたゞ、ばか/\しいばかりであつた。芝居もどきで
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