にかつがれて、落選し、当選しても、莫大な金を失つた。関係した事業は、ひとつとして、成功しない。――ふりかへれば、その足跡のある所には、必ず、ひとりの瘋癲人が、うろついてゐる。今もなほ一家を構へ、安穏に暮してゐるのが、不思議なぐらゐのものである。
 娘の聟として、自分自身をあてはめてみるとき、先づ、まつさきに、落第であつた。妻子を路頭に迷はせもせず、今もかうしてゐられるのは、たゞ、偶然の結果にすぎない。自分ばかりではないのだ。大多数の瘋癲人が、辛くも、人の生計を営んでゐる。一万人の九千九百九十九人が瘋癲人にすぎないのである。偶然、人の生計を維持し得てゐるにすぎないのだ。
 伝蔵は、死花に就て、考へる。これは、又、これで、別であつた。所詮、瘋癲人は、その一生を終るまでが、瘋癲人であるよりほかに、仕方がない。二十五歳の青年のとき、五十歳の自分が、大人げもなく酒に酔つて猥談し、陣笠の夢を捨てきれずにゐる。それを想像することができたであらうか。碌々として生を終る。自分自身の一生に就て、さういふことは感じてゐた。碌々たるに変りはないが、すてきれず、あきらめきれぬ老醜であつた。
 老骨よ。何処をさま
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