こたへて東京へ亡命してくる連中で、そのほかに、院外団のやうなのや、年中カバンをぶらさげて歩いてゐる男、金銀を探して年百年中山又山を旅行する男、支那陶器の鑑定家、幇間《ほうかん》のやうなものもある。奇妙奇天烈な連中が、入りかはり立ちかはり、やつてくるのだ。
 ところが、この連中は、年中、用もないのに人を訪問してゐるものだから、ついでに娘の御機嫌などもとりつけてゐるものと見え、野暮かと思へば変通自在で、波子は内心この連中を軽蔑しながら、然し、この連中と話をするのが、決して不快ではないのであつた。
 中に一人、謡の半玄人《はんくろうと》で、ブローカーのやうなことをやつてゐる楠本といふ中老人がゐた。流石に謡の半玄人で、人品骨格、堂々たるものである。楠本にも年頃の娘があるさうで、宝塚のことだの、西洋映画のことだの、変にくわしく知つてゐる。訪ねてくると、必ず、波子の部屋へも顔出して、一席、御機嫌をうかゞふのである。
「どうでんね。ちかいうち、いちど宝塚の方へ、お供せんならんと思ふてんのやが」と言ふ。楠本は関西の生れである。「格子なき牢獄は、どうや。あれは、伴奏が、しんみりとして、却々《なかなか》、
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