あなた……」
葉子は、ふと、伝蔵に話心かける。伝蔵は、びつくりして、目をさます。
「なんだい。え? バスが来たのぢやないのか」
「いゝえ。この寒さに居眠りして、風をひくぢやありませんか。志田さんの御家族は、幾人。お子さんが、四人、五人?」
「さて。志田さんの子供は、と。五人ぐらゐだらう。それが、どうした」
葉子は、それに、答へようともしない。それよりも、これが大事だといふやうに、又、風呂敷を包み直してゐるのである。たゞ、思ひついて、きいてみたゞけなのだ。伝蔵も亦、強ひて訊いてみようとはしなかつた。
「おや。雪が、つもりだしたぢやないか。ほら、笹の葉が、まつしろだ」
伝蔵は叫ぶ。
「…………」
葉子は、顔をあげようともしない。伝蔵の茶碗に、茶をついでゐる。……
父も、母も、どうして、こんなに、平然としてゐられるのだらう。……波子は、奇妙に、胸苦しかつた。用もなく、居眠りの人をよびおこす。居眠りの人は目を覚して、然し、べつに、腹を立てた気配もない。てんでんが、バラ/\のくせに、どうして、こんなに、平然と、安心しきつてゐるのかしら。
夫婦になる。子供を生む。――夫とよばれ、妻とよ
前へ
次へ
全38ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング