、助かつた――後日、伝蔵は、息子の霊に、かう呟いたほどである。
さうして、風流生活が始つた。
それから七年、彼としては、よくつゞいた方である。性来の浮気性で、脂ぎつた、賑やかなことにふつゝり訣別できる伝蔵ではなかつた。再びヤマ気が頭をもたげる。死花を一花咲かせて、といふわけであるが、かう宣言して、そのことで毎日葉子と争ひながら、然し、性来の小心で、一番不安で、前進の勇気がないのは、実は、誰よりも、本人自身であつた。やらないうちから、すでに、自責と悔恨が、ちらついてゐた。
風流三昧が、何より性に合つてゐたのだ……すでに、伝蔵は、泌々《しみじみ》とかう考へることがあつた。
娘が、美しい小蛇のやうな「女」であらうとは。伝蔵は胸に針の痛さを感じた。驚くほどの色情を見たのであつた。
思ひきつて、やつちやつて……と言ふ。私のことなら……伝蔵は、眼をとぢて、救ひを神にもとめたかつた。息つまるからだをうねらせて、燃える言葉を吐いてゐる。ギラ/\光る眼であつた。
脆いほど、鋭く、かたい。いつ、崩れ、いつ、とびちるか、分らない。崩れゝば、地獄へおちる。伝蔵は、思はず、眼をとぢずにはゐられなかつ
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