子だし、お宅サマの息子はもう孫娘に首ッタケでね」
「ウチの倅は大学生ですよ」
「孫娘も女学校に通ってましたがね。あの病気では、どうせ学校はムダですわ」
「まだ通ってますよ」
「早いとこ、やめた方が得でなかんべか」
「私の倅はキチガイに見えますか」
「孫娘も見えなかろうがね。発作の起きた時でなければ分りましねえ」
「倅は病人ではありませんよ」
「気取ることなかんべ。内輪同志ですわ。それに、あなた、二人はもう出来てるかも知れねえだよ。いずれまた、ゆっくりお話いたすべい」
バアサンは二人をケムにまいて堂々と退去したのである。
二人が茫然としているところへ、お握りジイサンがお疲れ見舞いにやってきた。
「明日の日程は、どうすべね」
「疲れすぎたから、明日は休みたいが」
「そうだ。そうだ。急いでやることはねえ」
「時にジイサン。お隣りの娘は精神病だそうだね」
「当り前さね。今さら気がつくことはなかんべ」
「なぜ」
「この温泉へ家族づれで来る客のうち一人はキ印さね。大昔からキ印の温泉さ。滝にうたれているのがみんなキ印さ。真人間は滝の裏に便所見つけねえだよ」
「なるほど、そうか」
「お宅サマの倅も
前へ
次へ
全30ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング