あなたと結婚するわ。もうダダはこねません。あなたが大好きよ。このホラ穴と同じように。接吻して」
ワンラであった。梅玉堂にとっては、うれしい生きたミイラの一瞬であったのだ。偉大なる大自然よ。
妖精の正体
その日はもうそれ以上歩くことができなかった。そして他の古蹟がここよりも難路とあっては、梅玉堂も初音サンすらも、これ以上大自然に親しむ必要を感じなくなってしまったのである。
二人が宿屋へ戻って完全にノビているところへ、バアサンがやってきた。
「ハイどうも、お邪魔いたします」
と一人でノコノコはいってきて、
「どんなもんでしょうね。ワタシのウチは村で一番の旧家だが、あなたの息子とウチの孫娘と、良縁でなかんべかね」
「ヘエ。縁談ですか」
「そうですとも。お互いにまア因果なことで、孫娘もキリョウは日本に一か二か、世が世ならミス・ニッポンですわ。分裂症でねえ。一度は東京の病院へ入院しましたが、治りませんねえ。もう結婚はあきらめていましたが、ここでお宅サマの息子にめぐりあうとは、神様はあるものですわ。ナニ、お互い病人同志なら、ちょうど、よかろ。孫娘もお宅サマの息子が気に入った様
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