発掘した美女
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梅玉《ばいぎょく》堂

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)七百九十|米《メートル》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ズシン/\
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     恋わずらい

 梅玉《ばいぎょく》堂は東京で古くから名のある菓子店である。その当主はよくふとっていたが、神経衰弱気味であった。見合をしたのが発病の元であった。
 むろん初婚ではない。梅玉堂は五十三だ。死んだ先妻には大学生の倅《せがれ》をはじめ三人の子供が残されていた。
 見合をした女の人も初婚ではなかった。初音《はつね》サンという人だ。先夫が病死して、子がなかったから、生家に戻っていた。まだ三十であった。すこぶるの美人であった。
 見合の結果、初音サンの返事が翌日になって梅玉堂に伝えられたが、この結婚は好ましくありません、というのがその返事であった。
 梅玉堂はさッそく初音サンに単独会見を申入れて許可を得、粋な料亭へでも行きたいところを、ここが時代精神であると心に期して、交響曲の長時間レコードをかな
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