でている優雅な喫茶店に落付き、二十の扉のような質問を連発した。
「年が違いすぎるせいでしょうか?」
「子供が三人もいるせいでしょうか?」
「家業がお気に召さないのですか?」
「私がふとりすぎているせいですか?」
「頭がはげているせいですか?」
その他何々キタンなく自己反省のあげくわが欠点のあらましを列挙したのであったが、初音サンの返事はどれでもなかった。そのあげく、初音サンの結論として、
「私はあなたを立派なお方と尊敬いたしておりますが、元々私はワガママなのです。それが原因の全部です。私なんかと結婚なさると、あなたは迷惑なさるばかりよ」
「その迷惑なら一向に差支えありません」
「ワカラズ屋ね。女に甘すぎてはいけませんわ」
「悪いところは順次改めるように致しますが、とにかく、これを御縁に、しばらく交際していただけませんか」
「無い縁と見切る方が、ムダが省けてよ」
「そこをまげて当分御辛抱ねがいます」
どうやら口説き落して、当分交際を願うことと相成ったのである。これが神経衰弱の原因であった。彼は恋をしたのである。
梅玉堂の倅、大学文科三年生の一夫はオヤジのモドカシサにつくづく呆れて、
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