気の毒になア。ま、ゆっくり養生しなさい」
お握りジイサンが退去すると、初音サンがふきだした。笑いがとまらないのである。梅玉堂もつりこまれて、しばしは笑いがとまらなかったが、気がつくと、それどころではない。二人がすでによろしき仲になっていたとなると、あのバアサンがこれを見逃してくれる筈がない。あの娘をヨメにもらわなければおさまらないような雲行きである。
待ちかねているところへ、一夫が娘との長い散歩から戻ってきた。
「お前、あの娘と肉体の関係ができたわけじゃあるまいな」
「バカにしちゃいけませんよ。ですが、彼女はいいですよ。純で、利巧で、また野性的ですよ。好きですね」
「本当に肉体の関係はないのか」
「イヤだなア。なぜですか」
「今朝滝壺で抱き合っていたじゃないか」
「あの時はおどろいたんです。彼女の姿が滝にのまれて消えたので、ボク滝の下をくぐったのですよ。ヒョイと滝の裏へでると、彼女がいるんです。いきなりボクに抱きついたんですよ。滝の精かと思いましたよ。抱きついて放さないんですね。シャニムニ抱きついたまま滝の真下へ押しこまれちゃいましたよ。妖精そのものの可憐さ、そして野性そのものです
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