戻ってきたが、振向いてみると、梅玉堂は登りつめたところで四ツ這いになってノビている。さすがに思いを寄せる麗人の前であることに思い至ったものか、歯をくいしばって上体を起して、アグラをかいて笑ってみせたが、全然泣き顔であった。
「あなた、そんなにお疲れになったの」
「この巨体、この、二十三貫五百……」
息も絶え絶えである。お握りジイサンから一パイ水をもらって、ようやく人心地がついた。
そこにホラ穴があった。まだ村人も底をきわめた者がないというホラ穴である。ようやく腹這いになってくぐりぬけると、暗黒の広間へでる。そこを登って行くと、だんだんせまく、廊下のようになり、また腹這いになってくぐることになる。その向うはまた広間らしく、水の流れの音がきこえるが、二十三貫五百の巨体はここをくぐることができないのである。
「もう、ちょッと行ってみたいわ。行っていいこと」
「行ってらッしゃい」
梅玉堂を暗黒の廊下に置き残し、お握りジイサンと初音サンは懐中電燈をたよりに石の彼方の広間へと消えこんだ。梅玉堂は完全なる暗黒世界でまたしても幻想に悩まされた。彼女の懐中電燈の電池がつきて、道を失って戻れなくなる
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