が便所へ行こうとしないから決死の思いで、あそこまでキレイにしたんだそうですよ」
「あれで掃除したの?」
「そうですッてさ。あれ以上はどうにもならないそうですよ。それでね。オ花チャンは今でも便所へ行かないそうですよ」
「どうしてるの?」
「谷底へ降りて、滝にうたれて用をたしてくるらしいですね」
「夜は?」
「夜もそうらしいですよ。バアサンと二人で、ゆうべもおそくなって外へ出て行きましたよ」
「呆れたわね」
「娘らしく、潔癖で、可愛いいですよ」
「潔癖でなくて、悪かったわね」
初音サンは立腹して、ズシン/\と足音高く便所へ乗りこんでいった。汚らしいものに着物や身体の一部がさわらぬように、異常なまでに注意を集中しなければならない。初音サンは戸の開けたてにも紙をだしてつまむ。便所から出てくると疲労コンパイして、グッタリしてしまうのである。
ようやく一同の入浴も終り、食事も終る。食事は木ノ葉天狗のジイサンが御飯とミソ汁を持ってきてくれるだけだ。カンヅメを持参したから良かったが、それにしても、御飯は麦だし、ミソ汁は全然塩ッぽいお湯のようだ。事ごとにロマンチックのアベコベだ。ハシャイでいるのは一
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