ンはスタスタと吊橋を渡った。対岸へついても梅玉堂の足音がきこえないから振向いてみると、梅玉堂は吊橋の真ン中へんに尻モチついている。
「どうかしたんですか」
「下駄が片ッ方見えなくなりましてねえ。先祖代々履き古してきた家宝の下駄らしいから探してるんですが……」
「探さなくッたッて分るじゃありませんか。たった一枚の板の上ですもの。そこになければ谷底へ落ッこッたのよ」
「どうも、そうらしいですな」
 せッかくロマンチックになりかけたのに、何たることだ。初音サンはウンザリしてしまった。

     ホラ穴の美女

 翌朝は考古学探険隊案内のため、お握りジイサンが早朝からきて、一同の朝の目ざめを待っていた。一同はかなり早く目がさめたのだが、それからが大変なのである。まず、顔を洗い、便所へ行く。この便所が大変だ。先祖代々掃除をしたことがないらしい。初音サンは前晩から泣きほろめいていたのである。
「ボクたちが来るまでは、もっと汚なかったんですッてさ。あのバアサンが堪りかねて、汚い物を始末して、とにかく今のようにしてくれたんだそうですよ。バアサンの孫娘の人、例の美人ね、オ花チャンと云うんですよ。あの人
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