京の者は、こんなもの食べてるのか」
「そうよ。もっと、もっと、おいしいもの食べてるわよ。オセンベだのシャガ芋の蒸したのなんか食べないわよ」
「モンジャ焼知らねえだろ」
「知らないわね」
「うめえぞ。東京の奴らに食べさせてえな」
「あんた、コーヒー好き?」
「アメリカ物はきれえだよ」
「コーヒーはアメリカ物じゃないわよ」
「きッとか」
「そうよ」
「じゃアどこの物だ」
「モカ。ジャバ。ブラジル」
「ブラジルかア。フン」
「ブラジルだけ、知ってたらしいわね」
「ジャバも知ってるよ。リオグランデデルノルデ、知ってるか。知らねえだろ」
「生意気な子ね。あんた、日本の子? アイノコでしょう」
「オレの村は日本一の村だ」
「もう、いいから、帰ってちょうだい」
たまりかねて、御帰館ねがったのである。少年は悠々と立ち上って、
「ジャガ芋、よこせ」
盆ごと持ってガイセンしてしまった。初音サンは毒気をぬかれてしまったらしい。
「田舎の子供ッて、みんなあんなかしら」
「まさかねえ」
「世間知らずのくせに、全然負けぎらいね。自分の村が日本の中心だと思ってるらしいわね。にくらしい」
「世間知らずと思えば腹も
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