「そうかい。待ってよ」
一夫は二ツ返事でタバコとライターを握って立ち上り、それから、ふと思い直して、いささかも悪びれるところなく学生服に着代え、二人を尻目に悠々と立ち去ったのである。
「兄さんだけ、ですッて。バカにしてるわね」
旅館の犬が庭にウロウロしているのを見ると、初音サンはジャガ芋をとりあげて投げた。犬は逃げてしまった。
すると、まもなく少年がきて、
「モッタイないから、ジャガ芋返しなさい」
「もらッたものは、私の物よ。犬にやっても鶏にやっても、かまやしないでしょう。アッ、そう、そう。あなたにいいものあげるわよ」
初音サンは少年を手なずけて、仕返ししてやりましょうと考えた。リュックの中からアップルパイと桃のカンヅメをとりだして、少年を部屋へよびこんで、御馳走した。
「どう? おいしいでしょう?」
「センベの方が、うめえな」
「これ、桃よ。おいしいでしょう」
「オレのウチの桃はもッとうめえ」
「オウチはどこ?」
「オレが云うても、おめえ知るめえ」
「理窟ッぽいわね。あなたの村の人たち、みんな、そう?」
「オレの村の者は、頭がいいな」
「あんた、ちッとも可愛くないわね」
「東
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