て並んでいるのである。彼がその前を通りすぎようとすると、
「デブチャーン。コンニチハ――」
 わざと声を細めて先ず呼びかけたのは姉の方である。すると弟がそれにつづいて、
「百貫デーブ、大きいな」
 梅玉堂は小心だから、子供にからかわれても羞しくて赤くなるのである。首スジまで赤くなるタチであった。少年は目ざとくそれを見つけて、
「ワーイ。赤くなッたぞ。百貫デーブのタコ入道!」
 梅玉堂は命のちぢまる思いをしたのであった。彼は戻ってくると、云った。
「とびぬけて利巧な娘だなんて、笑わせるじゃないか。不良少女だよ」
「そんなこと、あるもんですか。ボクは彼女と話を交したから分ります」
「バカな」
「お父さんは何を見てきたのです?」
「オレが見たのは裸体じゃないから、お前のように目がくらみゃしないのさ」
 と、梅玉堂は言葉を濁してごまかした。からかわれたのを正直に白状する勇気がなかったのである。
 そこへ少年がやってきた。お盆の上に蒸したジャガイモを幾ツかのせて、彼は三人の大人をいささかも怖れる様子なく、
「これ食べて下さいとさ。それから、兄さんだけお茶一しょに飲みましょう、だとさ。おいでよ」

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