きとつた。
 翌朝になつて小坊主が門前を掃きにくると牛が一匹しよんぼりしてゐる。別に縄につながれてもゐないのに、お寺の門前にしよんぼりして動かないから和尚に告げた。ああ、さうか、よしよし、それではゆふべ死んだものとみえる。それはウチの牛だから今日から野良に使ふがよい。オヤ、さうですか。和尚さまが買つておいでになりましたのですか。マア、さうぢや。どれ、ひとつ、見てやらう、と門前へ出てみると、大変大きなおとなしさうな赤牛だから、うむ、これなら申分なからう、野良へつれてゆきなさい、と寺男をよんで引渡した。
 ところが、この寺男がなんとも牛使ひの荒つぽい男で、すこし怠けても情け容赦なくピシピシ打つ。山へ行けば背へつめるだけの木をつませて、それで疲れてちよつと立止つただけでも大きな丸太で力一ぱいブンなぐる。ゆつくり草もたべさせず、縄をつかんで鼻をぐいぐいねぢりまはして引廻すものだから辛いこと悲しいこと、それでも五年間は辛抱した。そして、たうとう、たまらなくなつてしまつた。
 その晩から、和尚は毎晩のやうに、夢の中で必ず牛に蹴とばされる。どうやらスヤスヤ寝ついたと思ふと、どこからともなく牛がニュー
前へ 次へ
全22ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング