ら生れた噺なのだが、それなら、農民が土を私有しなくなつたらこんな噺はなくなるかといふと、然し、農民が土を私有しなくなる、ところが、困つたことに、農民が土の怨霊から脱けだす時がきても、人間といふ奴が、死んだあとでは土の中へうめられて土に還つてしまふので、どうも、これは、困つた因縁だ。結局、話が人間といふことになつては、私の屁理窟やおしやべりはもう及びもつかない。とにかく私は予定通り、土の中から生れて来た小さな話を書きたしておかう。
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昔々あるところに(紀州名草郡桜村などといふ人がある)物部麿といふ百姓があつた。ほかにとりたてて悪いところはないのだけれども、酒が好きだ。それから、女が好きだ。そして、あんまり働くことが好きでない。そのうちに、よその後家で桜大娘といふ女の子と懇になり、相思相愛で、婚礼をあげようといふことになつたが、何がさて麿は怠け者で余分のたくはへがないから酒が買へない。せつかくの婚礼だからせめて酒でも村の連中にふるまひたいがあいにくで、と女にそれとなくもちかけたのは、女は後家でいくらか握つてゐるだらうといふ考へからだが、それは困つたねえ、でも、い
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