な悲しい定めに対するたくまざる反逆報復の方法でもあつたのだらう。なんでも先様次第運命を甘受して、虐げられれば虐げられたやうに、甘やかされれば甘やかされたで、どつちも底なし、いつでも満ち足りず不平であり、自分は悪くなく、人だけが悪いのである。
これは一つは土のせゐだ。土は我々の原稿用紙のやうにかけがへのある物ではないので、世界の大地がどれほど広くても、農民の大地は自分の耕す寸土だけで、喜びも悲しみもただこの寸土とだけ一緒なのだ。ただこの寸土とそれをめぐる関係以外に精神がとどかないので、人間だか、土の虫だか、分らぬやうな奇妙な生活感情からぬけだせない。土地の私有がなくならぬ限り、農村の魂は人間よりも土の虫に近いものから脱けだすことは出来ないやうだ。
農村には今でも狸や狐が人をばかしたり、河童もゐるし、それどころか、我々の世界にはすでに地頭はゐないけれども、農村にだけはまだ例の到るところの土をつかむ地頭も死なずにゐる。だから、私がこれから一つの昔噺をつけ加へても、現代に通じてゐないことはない。農村は昔のままだ。それは土が昔のままで、その土を所有してゐるからである。だから、この噺は土の中か
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