かげでとんだ目にあふところだつた、落ちるうちに木の枝と葉の繁みの中へはまりこんで手をだしたら初めの技は折れてつかみ損ねたが、二本目、三本目にうまくひつかかつて木の胯の上へうまいぐあひに乗つかることができたのさ。それにしても平茸はいつたい何事ですか。いや、それがさ、木の胯へうまいぐあひに乗つかつてみると、その木にいつぱい平茸が生えてゐるのだ、見すてるわけに行かぬから手のとどくところはみんな取つて旅籠につめたが、手のとどかぬところにはまだいつぱい残つてゐる。旅籠につめたのなどはまことにただの一部分で、いやはや、何とも残念だ、実にどうもひどい損をしてきた、心残り千万な、といまいましがつてゐる。郎党どもが笑つて、命が助かつておまけにいくらかでも平茸をついでにとつて損などとは、と言ふと、殿様が叱りつけて、馬鹿を言ふものではないぞ、宝の山へ這入つて空しく引上げる者があることか、受領《ずりょう》(国司)は到る所に土をつかめと言ふではないか、と言つたさうだ。
 この話は昔から国司や地頭の貪慾を笑ふ材料に使はれてをつて、今昔物語にも、このあとに尚数行あり、郎党がこれに答へて、いかにも御尤も、我々|下素《
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