悪の転換くらゐてんで目新らしいことでさへなく、自卑が一瞬にしてドンキホーテの夢となり、帝王の自恃となり世界を相手の憎しみとなり、なにしろちよつと考へただけでも実にはや忙しいことではありませんか。
先刻日本人であることにウンザリしてゐると述べたくせに、ふと気がついたら日本人であることをひどく嬉しがつてゐるやうですね。我ながら呆れました。これも日本人であるための可能の国の出来事ですか! まつたく、可能の日本人を考へると実に新鮮で愉快ですが、自分の現実の日本人に気がつくと、ウンザリせずにゐられません。
日本人の精神生活を性生活にたとへると全くオナニズム的ではないでせうか? 性的な意味だけではなく、日本人の小説を読んでゐると打たれる美の多くのものがオナニズム的な傾向を多分にもつてゐることに僕はよく気付くのです。けれども日本人が年中オナニズムにふけつてゐるわけでなく、あたりまへの性生活だつてチャンとやつてゐるやうに、日本人の小説も所詮オナニズム的であることはまぬかれないとして、もつと積極的な行為の生活へはいつてゆく必要はあるでせう。
いや、何を言つてゐるのだか自分ながらわけが分らなくなつて
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