きました。質問の要素なんて、てんでどこにも見当らないに相違なく書けば書くほど恐縮するばかりですが、それでは健蔵兄、今更仕方がありませんから僕から右様の手紙を受けとつたことにして気軽な返事を書いてくれませんか? 貴兄の日本人に就ての感想をきかせて下さい。外国文学専攻の貴兄から我々と立場の違つた日本人観をきかせてもらうのは愉しいことです。
 僕が稚拙な饒舌を弄して多少とも話を日本人にふれさせたのは、文学に於ては欧洲的な方法がもはや一つの行詰りを示してゐて、我々が新らたに出発するためには全然別の発足が必要であり、然して我々が日本人であることがそのことの大きな強味になりはしないかと思はれたからです。けれども僕は従来の最も日本的な枯淡の風俗やらさび[#「さび」に傍点]とやらいふものには全く絶望してゐます。むしろ激しい反感を持つてゐます。僕の日本といふ意味がさういふものでないことは稚拙ながら今迄の饒舌の中から推察してもらへると思ひます。さうして、僕の意味する日本的なることが然《そ》ういふ新らたな発展に結びつかうとしてゐるために、特に貴兄のやうな外国文学に堪能な士から日本人をききたいといふ僕の微意も
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