ェゆれてゐた。二十三とか四であつたが、十七八の小娘のやうなところがあつた。全裸になつて体操するのが大好きで、ひとり余念もなく、大らかで、たのしげで、だから清潔で、温泉の湯ぶねの中でも、のびたり、ちゞんだり、桶をマリか風センにして遊んでゐたり、いつも動いてゐるのだ。男に裸体を見せることを羞しがらず、腕や腹や股に墨筆で絵を書かせてキャア/\よろこび、だからむしろ心をそゝる色情は稀薄であつた。マネキンになりたいけれども、シャンぢやないからダメなんだ、とこぼしてゐたが、私はそのとき、なるほどこれは天来のマネキンとでもいふのだらうなと思つたほど、常に動きが、そして言葉が、生き/\としてゐた。あれは、どこの宿であつたか。もう旅の終りで、あの日は沼津で映画だか芝居だか見て、私はそれを見ながら二合瓶をラッパのみにして、いくらか酔つてゐたのだが、それから長岡だかその隣りの温泉だかへ泊つたときであつたと思ふ。女はいくらかシンミりして、
「ねえ、まだ、東京へ帰るのは厭だな。もう一週間ばかり、つきあはない。私、このへんの酒場で女給になつて、稼ぐから」
「チップで宿銭が払へるものか」
「あゝ、さうか」女はひどく
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