二十七歳
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大々《ふてぶて》しさ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二三|米《メートル》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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魂や情熱を嘲笑ふことは非常に容易なことなので、私はこの年代に就て回想するのに幾たび迷つたか知れない。私は今も嘲笑ふであらうか。私は讃美するかも知れぬ。いづれも虚偽でありながら、真実でもありうることが分るので、私はひどく馬鹿々々しい。
この戦争中に矢田津世子が死んだ。私は死亡通知の一枚のハガキを握つて、二三分間、一筋か二筋の涙といふものを、ながした。そのときはもう日本の負けることは明らかな時で、いづれ本土は戦場となり、私も死に、日本の男はあらまし死に、女だけが残つて、殺気立つた兵隊たちのオモチャになつて殺されたり可愛がられたりするのだらうと考へてゐたので、私は重荷を下したやうにホッとした気持があつた。
つまり私はそのときも尚、矢田津世子にはミレンがあつたが、矢田津世子も亦、さうであつたと思ふ。
私は大井広介にたの
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