ォあらゆる宿命を陽気に送り迎へてゐるとしか思はれぬやうだつた。そして、私の沈黙の気質だの、陰鬱な顔附などを全然気にかけてゐなかつた。バスの車掌をしてゐたが、おツリの出し入れが面倒くさくてやめてしまつたのださうで、道を歩きながら車掌のマネをしてみせて、次は何々でございます、ストップねがひます、大きな声、往来の人々がビックリふりむいて顔を見るのを気にかける様子もない。
私達は足掛け八日旅行した。たしか八日だつたと思ふ。八日帰りがなんとか言つたが、金がなくなつてしまつたので、女が大いにケンヤクを主張して安温泉を廻つて歩き、ヒルメシはカツドンばかり食はされた。私がをかしくて仕方がなかつたのは、この女は人の顔の品定めなどテンからやらぬたちなのだが、バスに乗つた時に限つて女車掌の品定めをして、あら、あの子、凄いシャンだ、と言ふ。一向にシャンでもないから、君の会社はよつぽどデブばかり揃つてたんだな、と笑ふと、この時ばかりはいさゝかてれて、ウームと一と唸り、メーデーだか何だかに赤旗かつぐのが羨しくてバスの車掌になつたのだけれども、共産党になれと言はれて、閉口したのださうである。まつたくこの女はオッチ
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