ヨ子からズリ落ちて大きな口をアングリあけて土間の上へ大の字にノビてしまつた。女と私は看板後あひゞきの約束を結び、ともかく中也だけは吉原へ送りこんでこなければならぬ段となつたが、ノビてしまふと容易なことでは目を覚さず、もとより洋服をきせうる段ではない。仕方がないから裸の中也の手をひッぱつて外へでると、歩きながらも八分は居眠り、八十の老爺のやうに腰をまげて、頭をたれ、がくん/\うなづきながら、よろ/\ふら/\、私に手をひつぱられてついてくる。うしろから女給が洋服をもつてきてくれる。裸で道中なるものかといふ鉄則を破つて目出たく妓楼へ押しこむことができたが、三軒ぐらゐ門前払ひをくはされるうちに、やうやく中也もいくらか正気づいて、泊めてもらふことができた。そのとき入口をあがりこんだ中也が急に大きな声で、
「ヤヨ、女はをらぬか、女は」
と叫んで、キョロ/\すると、
「何を言つてるのさ。この酔つ払ひ」
娼妓が腹立たしげに突きとばしたので、中也はよろけて、ひつくりかへつてしまつた。それを眺めて、私達は戻つたのである。
私が連れこまれた女のアパートは、窓の外に医院があつて薬品の匂ひの漂ふ部屋であつ
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