り、天智の生母、舒明の皇后であり、孝徳はその弟、天智の叔父に当る。
 この時まで女帝といふことは推古の外には例がない。然し、この時には女帝に意味があるのではなく、中大兄皇子(天智天皇)が自らの意志によつて皇太子であつたところに意味があり、皇子は大改革、むしろ天下支配の野心のもとに、その活躍の便宜上、ロボットの天皇を立て、自らは皇太子でゐたものだ。その腹心は鎌足であり、全ては二人の合議の上で行はれたものであつた。
 自分自ら号令を発しても威令は却々《なかなか》行はれるものではない。一つの神格的な天皇といふものを自分の一段上に設定する。そして自分の号令を天皇の名に於て発令し、自分自身がその号令に服して見せる。そして、自分が服したことによつて、同じ服従を庶民に強制するのである。この方法は平安朝の藤原氏が、武家時代の鎌倉政府が足利氏が、そして昭和の今日には軍閥政府が、行つたところである。天皇はロボットであつた。その号令は天皇の意志ではなしに、藤原氏の、鎌倉幕府の、軍閥政府の意志であつた。然し、彼等は天皇の名に於て自らの意志を行ふ。そして自ら真ッ先にそれに服従することによつて、同じ服従を万民に強
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