・デタを企んでゐるといふのであつた。
 押勝は自邸に警備をつけ、召捕の使者は即刻四方に派せられた。その隊長の一人は藤原永手であつた。彼は押勝の命を受け、まるで腹心の手先のやうな赤誠を示して出掛けて行つた。主謀者達は、諸王も諸臣も召捕られた。然し白状したものは、小野東人だけだつた。そして、東人に白状せしめた者も永手であつた。
 諸王達も諸臣達も、他の何人も白状しなかつた。彼等はたゞ東人が誘ひにきたので集つたので、集りの目的も知らないと言つた。東人が礼拝しようと言ひだしたので、何を礼拝するのかと訊くと、天地を拝すのだといふ、それで言はれるまゝに礼拝したが、陰謀の誓約のために礼拝したのと意味が違ふ、それが彼等の答へであつた。彼等の答へは全てがまつたく同一だつた。
 そこで彼等は拷問せられて、廃太子道祖王、黄文王は杖に打たれて悶死をとげ、古麿と東人も拷問に死んだ。生き残つた人々は流刑に処された。東人が杖に打たれて死んだので、この真相はもはや誰にも分らなかつた。
 そして、このとき、豊成の子の乙縄《おとただ》も陰謀に加担してゐた。そこで父の右大臣は陰謀を知つて奏することを怠つたといふ罪に問はれて
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