としてその実権を掌握するに至つたのは、大化改新に於てゞあつた。
 蘇我氏あるを知つて天皇あるを知らずと云ひ、蘇我氏は住居を宮城、墓をミサヽギと称し、飛鳥なる帰化人の集団に支持せられて、その富も天皇家にまさるとも劣るものではなかつた。畿内に於けるこの対立ほど明確ではなかつたにしても、地方に於ける豪族は各々土地を私有して、独立した支配者として割拠してをり、天皇家の日本支配は必ずしも甘受せられてゐなかつた。
 大化改新は、先づ蘇我一族を亡すことから始められたが、その主たる目的は、天皇家の日本支配の確立、君臣の分の確立といふことだ。口分田とか租庸調の制度は、土地私有の厳禁、つまり天皇家の日本支配の結果であつて、目的ではない。
 蘇我氏を支持する帰化人の集団は飛鳥の人口の大半を占め、当時の文化の全て、手工業の技術と富力をもち、その勢力は強大であつた。真向からこれを亡す手段がないので、天智天皇は皇居を近江に移してこの勢力の自然の消滅を狙つたが、この勢力の援助なしには新都の経営も自由ではない。その弟の後の天武天皇が兄の天皇の憎しみを怖れて吉野に逃げたのも、この勢力の支持を当にしてのことであつた。
 
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