語られ、歌はれ、行はれ、今日あるが如き歪められた風習が女性に対して加へられてゐなかつたといふだけのことだ。とはいへ、今日に於ては、歪められてゐるのは男とても同断であり、要するに男女の心情の本性が風習によつて歪められてゐる。
平安朝に於てはそれが歪められてゐなかつた。男女の心情の交換や、愛憎が自由であり、愛慾がその本能から情操へ高められて遊ばれ、生活されてゐた。かゝる愛慾の高まりに、女性の叡智や繊細な感覚が男性の趣味や感覚以上に働いたといふだけのことで、古今を問はず、洋の東西を問はず、武力なき平和時代の様相は概ね此《かく》の如きものであり、強者、保護者としての男性の立場や作法まで女性の感覚や叡智によつて要求せられるに至る。要求せられることが強者たる男性の特権でもあるのであつて、要求する女性に支配的権力があるわけではない。いはゞ、男女各々その処を得て、自由な心情を述べ歌ひ得た時代であり、歪められるところなく、人間の本然の姿がもとめられ、開発せられ、生活せられてゐたゞけのことなのである。特に女性時代といふことはできない。
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皇室といふものが実際に日本全土の支配者
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