本一の豆腐ださうだが、東京のさる高名の料理屋が、この豆腐の製法をつぶさに模して作つたところ、一丁が五十銭につくので断念したといふ話があるのださうである。一流人の大精神は京都くんだりの不良少女づれに分らう筈のものではない。ますらをは花と咲き、また花と散るものぢやよ。ちよつとしても、日本一の豆腐ぢやなきや食はないから、ザマ見やがれ、と意気揚々、まづ祇園乙部の見番に杉本のおつさん(これは小生の碁敵だ)を訪れ、日本一の豆腐の由来を説明して、案内を頼んだ。
さて、おつさんの案内で、まんまと日本一を手に入れた御両人、これを河豚料理屋へ持参に及んで、これで「てつちり」こしらへておくれやす、と見事に通なる註文をだし、なに河豚の毒血なんざあ搾らねえでも構はねえと大きなことをぬかしながら、大いに酔つたね。
この時以来京都の街が狭くなつて大いに弱つた。人口百万もあるくせに、盛り場がたつたひとつで、新京極まで行かなければ活動写真も見られない町である。東京には友達が何万人――はちと桁が違つたが、ゐる小生、銀座で友達にめつたに会はぬが、友達がたつた二人の京都では屡々新京極でかちあつたのだから、だらしないほど小
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