から、口説くどころの話ぢやない。これは飛んだ罪なことを致しました、と安心して、四日目からは監視もつけなくなるといふ軽蔑ぶりであつた。
三宅君世の無常を歎じて、京都の不良少女は二流でさあ。人間の心意気といふものが分らねえ、なぞ負け惜みを言つたが、意気揚がらざること夥しく、専らやけ酒を飲みたがるのも、亦《また》惨たる姿であつた。
(三)[#「(三)」は縦中横]
数日前、河原町四条の洋品店のショップガールから電話があつてお宅の娘さんが金借に来たが、様子が変だから、二時間後に又来ておくれやすと一応帰したからといふ知らせであつた。それといふので、食堂の親爺が張込みにでかけ、漸く娘を連れて帰つた。
この娘、家へ戻つてから頑として口を開かぬ。何処にどうして暮してゐたか、なんと手をつくしてみても無言の業で、先生になら話すといふ御挨拶ださうである。
ところで先生、探偵では面目玉を踏みつぶし、不良少女に舐められて、いささかならず世を儚なんでゐる最中ではあり、家出だの道行だのといへば七八年来この先生とは親類づきあひの心安い間柄で専ら悪徳の講釈に憂身をやつしてゐる御仁だから、大いにて
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